しんじつ玄海の舟が浮いてゐる

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※表題句は1月25日記載の句

−表象の森− 清代諸家-古代への憧憬-2
石川九楊編「書の宇宙-22」より

伊秉綬−イヘイジュ−は、蠟石如ほど秦漢の文字の再現に満ち足りることはなく、むしろ、金農の後継者でもあるがごとくに、篆書とも隷書とも楷書ともつかぬ独創的な、これまた表現上のスケールの大きな書を残している。それだけにとどまらず、その篆書や隷書の書法は、伊秉綬の行書体や草書体の書の中にも環流し、これまたきわめて特異な行草書を残している。

・伊秉綬「魏舒伝節録」
文字の造型の奇抜さは隷書文語ほどではないが、文字を歴史的な規範に従って書くだけではなく、直線と曲線、○や△や□や×という図形的な視点から捉え返し、描き出す試みが生じている。<飮><酒><山><事>の一部に角を削いだ曲線的表現が見られ、<爲>や<漁>の点に○が、<飮><酒>の一部に△が、<酒>や<石>や<漁>に□を意識したと思われる表現。文字を幾何学的な図形のようなものとして見る視点の獲得によって、従来の書と異なった奇抜な造型が生じている。

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/飮酒石餘。著/韋衣。入山澤。/爲漁獵事。

・伊秉綬「行書戒語」
横画を水平にした、素朴なとぼけた味わい。<其芳><積金><積徳>作為的な筆画の連続も不思議な味を生む。伊秉綬のこの構成法は、長く東アジアに君臨してきた王羲之の集字聖教序の規範から脱している。この書は篆書や隷書の復興にとどまらず、行草書までもが王羲之の範を脱したことを宣言する、革命的な行草書である。もはや蛇行線の図形のごとき<遂>の辶部、篆書体を草書体のごとき筆蝕で書いた<與>など、見所である。

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/水之源遠。其流不竭。木之根/遂。其芳不歇。積金與子孫。不/如積徳。

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