馬糞掻あふぎに風の打かすみ

Db070510026

<連句の世界−安東次男「風狂始末−芭蕉連句評釈」より>

「霽の巻」−05

   北の御門をおしあけのはる   
  馬糞掻あふぎに風の打かすみ   荷兮

馬糞-まぐぞ-掻-カク-あふぎ-扇-に風の打-ウチ-かすみ

次男曰く、新年の行事と時候に続けて、天文の付を以てした春三句目である。一読、季語の扱いが前句と変化に乏しいように見えるが、霞は兼三春の季で、前と合せれば初霞と読め、又、移して夏霞にも執り成しが利く。句材に扇を取り込んだのと共に、次句に対する三季移りの誘い水とも読める仕様である。むろんここは四時正装につきものの扇子で、雑の詞だ。

句は「おしあけのはる」を白扇をひらく動作に移して見合とし、狩立のあとにのこされた馬糞を、初春の縁起物とも眺めやっているらしい作りである。近世、年始回りに扇を配る風習が広く行われ、礼扇と云う。そのめでたい扇を、回礼ならぬまず馬糞掃きの用とした、奇抜な思付に俳がある、と。


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