草ふかく水のあふるるよ月

Alti200430

―山頭火の一句―

昭和12年初夏の頃か、「層雲」発表の句。

この年の山頭火は其中庵にあって、読書に耽ることが多かったようである。道元の「正法眼蔵」を読む際などはかならず正座していたらしい。

とはいえ、むろん近くの湯田温泉へは知人らとよく遊蕩にも出かけている。
ある友人への手紙に
「‥、老いてますます醜し、私はどうしてもシンから落ちつけません。清濁明暗の境を彷徨してをります。」と綴り、
「身のまはりはほしいまゝなる草の咲く」
と句を添えている。


―表象の森― 処分されるペットたち

全国各地にある行政機関の動物愛護センター、ここには全国で1年間に14万頭の犬、23万匹の猫が保護され、そのうちの大半35万の犬猫が殺処分-H18年統計-になるという。
保護収容されてから「1週間」、この短い時間が彼らの処分猶与期間だ、と。
35万という数値にも驚かされるが、たった1週間の余命という事実はさらに衝撃だ。

ステンレス製の密閉された小さな室内に炭酸ガスを送り込み窒息死させる装置は「ドリームボックス」と名づけられている。
この残酷で醜悪なアイロニー


―今月の購入本―
・J.ボードリヤール「消費社会の神話と構造」紀伊国屋書店
訳者今村仁司は本書あとがきにて、生産主義的-経済学的-思考では把握不可能であったポトラッチ型消費の意義は、バタイユに発しボードリヤールを経て、新たなる社会学的概念へと鍛え直された、という。マルクスの価値形態論とソシュール記号論を結合して社会現象の解析手法としたボードリヤール的消費概念とは‥、1979年初版、中古書

・ネルソン・グッドマン「世界制作の方法」ちくま学芸文庫
「われわれはヴァージョンを作ることによって世界を作る」、芸術、科学、知覚、生活世界など、幅広い分野を考察し、人間の記号機能の発現としてのさまざまな世界を読み解き、現代哲学の超克をめざすという本書、87年初訳のみすず書房版の文庫化、08年刊

・マイケル・ポランニー「暗黙知の次元」ちくま学芸文庫
80年初訳の紀伊国屋書店版には「言語から非言語へ」と副題されていたこの書は、ポストモダン思潮のひろがりのなかで栗本慎一郎らによってものものしく喧伝されていたが、本書はその新訳にて「暗黙知」再発見を問う、03年刊

・K.ステルレルニー「ドーキンスVSグールド」ちくま学芸文庫
進化の神秘を自己複製子にまで徹底的に還元して説明するドーキンスと、数億年単位の歴史に天体の楕円軌道にも似た壮大なパターンを見出すグールド。対照的な二人のあいだの相違点と共通点を簡潔に整理してくれる、2004年版中古書

・J.ドゥルーズ・F.ガタリ「アンチ・オイディプス−資本主義と分裂症 上」河出文庫
     々      「アンチ・オイディプス−資本主義と分裂症 下」 々
欲望が革命的なのは、それが荒々しいからではなく、意識によっては導かれない微細な未知の波動と流線そのものだからである。Globalizationと原理主義という相反するとみえる二つの傾向が、同じ一つの世界システムから出現することを、本書はすでに精密に解明し、警鐘を鳴らしていた、86年河出書房新社刊の新訳版、06年刊

宮坂宥勝監修「空海コレクション -1-」ちくま学芸文庫
空海の主要著作のうち「秘蔵宝鑰」-十住心論の要約-と「弁顕密二教論」を詳説する、04年刊

吉本隆明カール・マルクス光文社文庫
60年代、混迷の政治の季節、虚飾のまみれたマルクスを救出するべく、その人物と思想の核心を根底から浮き彫りにした「カール・マルクス」-試行出版部刊-に小論2編が付されている、06年刊

保阪正康/広瀬順晧「昭和史の一級史料を読む」平凡社新書
国会図書館憲政資料室に永年勤めた広瀬順晧を相手に昭和史研究の著作で知られる保阪正康が読み解く、昭和前期激動の舞台裏と天皇ヒロヒトの実像に迫る、08年刊

・「遠田泰幸作品集」遠田珪子編集発行
52歳で夭折した画家遠田泰幸の私家版遺稿作品集、中古書

広河隆一編集「DAYS JAPAN -処分されるペットたち-2008/06」


―図書館からの借本―
末木文美士編「思想の身体−愛の巻」春秋社
書中白眉は終章、上野千鶴子末木文美士の対論。冒頭上野千鶴子吉本隆明共同幻想論」の衝撃体験から論を起している。渡辺哲夫の「フロイト性愛論批判」はバタイユと対照させた論点が関心を惹く。GIDで女性から男性へと戸籍も変えた虎井まさ衛の「性同一性障害を生きて」は直截な語り口で読ませる、06年刊

渡辺京二「江戸という幻景」弦書房
「逝きし世の面影」で、来日外国人たちの遺した記録を渉猟し、幕末から明治にかけての庶民の風景を描いた著者の、その続編とも云うべき、江戸の人々、その文化の風貌を活写する、04年刊

・文化科学研究所編「パフォーミングアーツに見る日本人の文化力」水曜社
演劇や舞踊に活躍する現代アーティスト30人へのインタビューで構成、07年刊

セミール・ゼキ「脳は美をいかに感じるか」日本経済新聞社
著書に「脳のビジョン」をもつ視覚脳の研究者が、ピカソやモネなどの美術作品を、脳内で生じている事象から説明しようという試みの書、02年刊

・荒井献「ユダのいる風景」岩波書店
著者は新約聖書学者にてグノーシス主義研究者。ユダとは誰か、古代・中世・近現代へとユダのいる風景の変遷を辿る、07年刊

川村湊補陀落−観音信仰への旅」作品社
聖母マリアから摩耶夫人、媽祖信仰へとひろがる観音信仰をめぐって、補陀落渡海にはじまり日本各地から韓国・中国またインドへと訪ね歩いた旅の文学的思索、03年刊


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