馬も召されておぢいさんおばあさん

Ryuboku1

―山頭火の一句―

句集「銃後」所収、昭和12年の句だが、時季のほどは判らない。

11月1日の日記には短く、「自己否定か。自己破壊か。自己忘却か」と。
山頭火はやっぱり落ち着けない。湯田温泉へ出かけて、またしても自分を見失ってしまった。

2日から3、4、5と、「飲んだ、むちゃくちゃに飲んだ、T屋で、O旅館で、Mで、K屋で。‥たうたう留置場にぶちこまれた、ああ!」

彼は留置場に4泊5日留め置かれた。検事局で、飲食の支払を14日迄に、と期限をきって誓約、とりあえず釈放された。


―四方のたより―

奇想のイベント「デカルコマニィ的展開/青空」展の初日、
予定の番外ながら、いわば勝手連的にだが、わが四方館も一景を添えさせてもらった。
急遽、若干の人々に案内をしていたので、わざわざお運びいただけた方たちもあり、おかげでかなり面白いものとなった。

デカルコマリィ、イシダトウショウ、川本三吉の三者が、踊ると云うよりは些か劇的に在りつづけようとする空間にあって、その位相とは別次に、ひとりひとりを、あるいはDuoを、また3人をと配し、踊りを成り立たしめてみること、課題はそんなところにあったのだが、観た者も演奏者も、さらには演者たちも、どう感じとったか確かめてもいないが、私の眼には予見を大きくは違わず、試みてみただけのことはあったと云えそうだ。

会場に大きく座を占めていた太い丸太が、赤く塗られた鎹で繋ぎ合わせられ、長い円弧になって、これが客席へと変身したのだが、どうやらこの太い丸太、曰く付きの伝説的造型作品だとかで、中が刳り抜かれた長大なカヌーで、75年、琵琶湖に浮かべようと企画、制作されたものだという。

写真は、その制作者でもある三喜徹雄氏の作品「流木RYUBOKU2007/7」
青森県下北半島六カ所村海岸に流れついた1本の流木をつなぎ合せる。三喜徹雄」と添書がある。

ここ数年来、彼は放浪の人となり、トラックに日用具一切を乗せ全国の海浜を廻っては、見つけた大きな流木をチェンソーで裁断し、組み上げては立体造形をしているという。もちろん、海辺で生まれた作品は、人の眼に触れることもなく、またどこかに運び込まれるわけでもない。ただ一枚の写真となって彼の造型行為はそこで完結、ということであるらしい。

ばかき様の裏に記された作業日記のごとき彼の短い一文が、この営みに賭ける彼の拘りよう、ひいては生きざまを伝えてとてもいい。

青森県下北半島に漂着した一本の流木をチェンソーで台形に切断してゆき渦巻状に組み立てる。7/23 今回はハイエースに自転車です。下北まで約20日ちかくかかってやっとこの一本の流木にめぐりあうことが出来ました。7/24 流木半分砂に埋っているので堀出作業に一日かかってしまった。7/25 いよいよチェンソー切断です。なかなか刃を入れる角度が決まらず苦労する。7/26 流木のある地点から波打際まで約300m。小さな砂丘を越えて切断したパーツを1つずつころがしてゆく。広大な砂丘の中でひとり黙々と作業する。7/27 前日と同じ作業。7/28 波打際での組立て。カスガイを打って完成。それにしてもここは涼しい。」

とあり、携帯のメールアドレスのあとに、「住所は只今ホームレスのためありません」と記す。

偶々同席した陶芸の石田博君によれば、京都教育大の同期生仲間とか、ならば私とも同年となるが、この潔さと徹しようは、此方まで心洗われるようであり且つズシリと肚に響く。


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