香を尋めし榊の声にさ夜更けて‥‥

Gnome

−表象の森− 不思議の国の「ノーム」

先日、幼な児の絵本読みと「まんげつのよるまでまちなさい」について書いたのを読んだ友人T君から、愉しくて不思議な絵本「ノーム」が贈られてきた。
ベストセラーとなった豪華な大型本である。210頁余に、ノームの人と形、日々の暮らし振りのディテールが、反自然的な我々人間社会とはどこまでも対照的に、こと細かに描かれ、後半には「ノームにまつわる伝説」として9つのエピソードが添えられている。
ノーム-Gnome-とは、大地を司る精霊とされ、主に地中で暮らし、老人のような容貌をした小人。手先が器用で知性も高く優れた細工ものを作るとされるが、初期ルネサンス期、錬金術師として名高いあのバラケルスス(1493−1541)が、「妖精の書」のなかで言及した四精霊の一つ−即ち、火の精霊−サラマンダー、水の精霊−ウンディーネ、風の精霊−シルフ、そして地の精霊−ノームである−として登場するのが、どうやら文献上の初めのようだ。
なによりもリーン・ポールトフリートの描く絵がいい。自然や動物たちのリアリスティックな描写と、ユーモアたっぷりなノームたちの生態描写の対照が、構成の妙として活きている。
監訳者として名を連ねる遠藤周作が、「すれっからしの我輩まで夢中にさせた」と言うとおり、子どもから大人まで、奔放に想像の羽をひろげてくれる不思議の世界だ。
この絵本を手にとって唸るほどに感激していたのは今年37歳になるわが連れ合いだが、まだ5歳の幼な児にとっても、これからの長い成長史のなかで、折にふれ立ち返る想像力の源泉ともなることを望みたいもの。


と、そんな次第で、さっそく図書館に続刊の「ノーム」本を2冊予約、週明けにも手にすることができようか。
昨年の6月、鬼籍の人となった清岡卓行の大部の小説「マロニエの花が言った」は古書での購入だが、それでも上下巻で4000円也。果たして読破するのはいつのことになるか。
井上ひさしの「宮沢賢治に聞く」に触手を伸ばしたのは、先日、毎日新聞に紹介掲載された青少年読書感想文コンクールでの優秀作品の内、岩手県滝沢村滝沢南中学校3年生の田中萌さんの群を抜いた見事な文章力に感心させられて。
彼女の作品は中学の部の最優秀作品(内閣総理大臣賞)に選ばれているが、なんと小学校6年の時にも同賞を獲ているというから驚かされる。
「この国で女であるということ」の島崎今日子が同じ市岡の25期生だったとは、巻末の小倉千加子の解説を読むまで知らなかった。
ARTISTS JAPANはいわゆる週刊ものだが、いつでも止められる気安さもあってしばらくは購読してみる。


−今月の購入本−
清岡卓行マロニエの花が言った−上」新潮社
清岡卓行マロニエの花が言った−下」新潮社
川上弘美「真鶴」文芸春秋
山室信一「キメラ−満州国の肖像」中公新書
M.フーコーフーコー・コレクション-6-生政治・統治」ちくま学芸文庫
井上ひさし宮沢賢治に聞く」文春文庫
島崎今日子「この国で女であるということ」ちくま文庫
ARTISTS JAPAN -1「葛飾北斎デアゴスティーニ
ARTISTS JAPAN -2「横山大観デアゴスティーニ
ARTISTS JAPAN -3「東山魁夷デアゴスティーニ
ARTISTS JAPAN -4「尾形光琳デアゴスティーニ
ARTISTS JAPAN -5「東洲斎写楽デアゴスティーニ

−図書館からの借本−
ヴィル・ヒュイゲン「秘密のノーム」サンリオ
ヴィル・ヒュイゲン「わが友ノーム」サンリオ


<歌詠みの世界−「清唱千首」塚本邦雄選より>

<冬−53>
 朝氷とけなむ後と契りおきて空にわかるる池の水鳥  守覚法親王

新続古今集、雑上、朝見水鳥といふことを。
邦雄曰く、新古今時代の歌人の宰領指導に関わっては、一方の重鎮であり、式子内親王の同母兄、後鳥羽院には伯父にあたる歌人だが、新古今入選は僅かに5首、歌風はむしろ六条家の尚古派に傾いている。「空にわかるる」の準秀句表現にも、自ずから節度を保ち、それが一首に鷹揚な雰囲気をもたらした。作者の矜持、同時に限界の見える佳品に数えたい、と。


 香を尋(ト)めし榊の声にさ夜更けて身に沁み果つる明星の空  藤原定家

拾遺愚草、上、重奉和早卒百首、冬。
邦雄曰く、慈円の草卒露膽百首に和し、定家は文治5(1189)年、27歳春に、二度百首詠を試みる。この歌は二度目の作の冬、神楽の歌であり、「明星(アカボシ)」は夜を徹しての暁、神上りに奏する歌。同時に明星煌めく時刻でもある。「榊の声に」あたりに定家の個性躍如、「身に沁み果つる」に、さほど重い意味はないが、抑揚の激しさは一入と思われる、と。


⇒⇒⇒ この記事を読まれた方は此処をクリック。